こんにちは!本日は、映画会社の業界最大手「東宝株式会社」について取り上げます。東宝株式会社は、映画・演劇の製作配給・興行や不動産賃貸を行っています。現在では映画の自社制作は殆ど行わなくなり、製作配給がメイン事業となっています。また、あまり知られていませんが、不動産賃貸事業を行っており、これは東宝全体の利益の約4割を占める中心事業へと成長しているのです。
時代の変化とともに、事業内容を変化させ進化を続ける東宝株式会社。東宝の知られざる裏側についてまとめます。
歴史・沿革
東宝株式会社は名作映画を多く手がけるているので、一般的には映画会社というイメージが強いかも知れません。しかし実際には、東宝グループは、「映画」「演劇」「不動産」の3つを柱としている会社です。映画の他にも演劇や賃貸業も営んでおり、収益の約半分は賃貸業です。「朗らかに、清く正しく美しく」をモットーに、人々に望まれるものを鮮やかに提案しています。
東宝の設立は1932年。まさに激動の時代です。東宝の創業者である小林一三が、1932年8月に株式会社東京宝塚劇場を設立したのが始まりです。小林一三は阪神急行電鉄(現在の阪急電鉄)に務めていました。東京宝塚劇場は、演劇映画の興行を主たる目的として作られました。1934年に東京宝塚劇場を開場し、その後有楽座、日本劇場、帝国劇場を所有します。浅草を手中に収める松竹とともに、東京の興行界を二分することになるのです。
東宝の設立当初、日本は戦時中です。東宝も戦乱の渦に飲まれます。東宝が有していた東京宝塚劇場は戦中は兵器工場とされたり、大戦後は進駐軍の貸し切りになったりと、時代の荒波に揉まれてきた歴史があります。
1943年には東宝映画株式会社を合併し、映画の製作、配給、興行および演劇興行の総合的一貫経営を行うこととなり、社名を東宝株式会社へと改称するのです。戦乱の苦労もありましたが、東宝株式会社は設立からわずか10年で大きく成長を遂げました。
東宝が利益を大きくすることに成功した要因のひとつが、「プロデューサー・システム」です。製作における予算と人的資源の管理を自社(この場合は東宝株式会社)が行うというシステムで、当時としては前例のない画期的な方法でした。
1950年には日本の映画界は黄金時代を迎えます。『七人の侍』『ゴジラ』などの東宝映画が次々と大ヒットを飛ばし、民法テレビ局が開局したことも追い風となり、映画がますます世間の娯楽として人気になるのです。
しかし1960年~1990年の30年間で、映画人気は徐々に衰退していきます。特にカラーテレビが発売されてからは、徐々に人々の映画離れが加速してしまいました。白黒テレビの時代は、テレビが追い風となり映画の売上が挙がったのです。しかし、映像が美しいカラーテレビが登場したことで、映画の人気は徐々になくなっていきます。カラーテレビが発売され、その後もどんどん美しい映像がみられるテレビが発売されてゆきました。テレビの映像美が進化してゆく過程で、「わざわざ映画館に足を運ばなくても自宅で綺麗な映像が見る」ことが可能となりました。その結果、徐々に映画の売上が落ちていったのです。
映画の売上が失速してしまった1990年代、東宝は事業内容を大きく変えました。映画の自社制作を止めたのです。自社での邦画製作は「ゴジラ シリーズ」を除き行わなくなり、テレビ局や外部プロダクションが製作した映画を配給する方針に転換しました。自社制作を止めたことに対して不満に感じる社員もいたと思いますが、結果的に映画配給にシフトチャンジしたことで成功を収めました。 2013年には新たに『アニメ事業室』と『自社音楽レーベル』を立ち上げました。現在では、自社企画でのアニメ事業の強化に乗り出しています。
事業内容・強み
前述の通り、東宝の事業内容は「映画」「演劇」「不動産」の3本柱です。
収益面は「不動産」が大きく支えていますが、東宝といえば何と言っても「映画」のイメージが強いと思います。「映画」は、企画・製作及び製作請負・配給・放映と、映画に関する"始まり"から"終わり"までの全てに携わっています。近年では、テレビ向けの作品やインターネット向けのコンテンツにも注力しています。映画業界でも絶大な存在感を示しており、映画もテレビも「話題作・力作は東宝に任せる」という風潮が形成されています。このために東宝は圧倒的なシェアを達成し、現在では同業他社を完全に突き放した形です。
時代に合わせて活動内容を転換していくのが東宝の特徴です。例えば、これまで力を入れてきた映画の自主制作を縮小してテレビ作品に切り替え、成功をおさめた実績があります。近年は映画撮影の技術が途絶えないように、同社の設備や技術を貸出して、他社作品をサポートするような役割を果たしているようです。
不動産関係としては余分な敷地を賃借するなどして運用し、不動産事業でも東宝全体の約4割もの利益をあげています。全体的に挑戦を成功させつつ、しかも合理的に経営されている点は大きな強みと言えるでしょう。
社員からの評判
東宝株式会社は、大手企業の中でも際立った存在です。「給与面は納得できる」との声が多数となっています。実際に平均収入を見ていくと、平成28年時点で平均年収800万円代後半、900万円に届きそうなレベルです。かなりの高水準の収入が目指せる会社と言えるでしょう。昇給も定期的に行われているようです。
特に役職手当が大きいようで、30代前半で平均収入を超えているという方もおられます。ボーナスは2回あって残業代もきちんと払われるという口コミもあり、この点では従業員の評判も悪くはありません。
従業員への待遇としては、福利厚生や勤務時間・休日の設定で評価が高い傾向です。大手の会社ですから福利厚生面では社会保険類は当然のように完備されていますし、介護・育児関係の諸制度も充実。社内預金や企業年金の他にもスポーツジムとの法人契約などが、採用条件の実績としてみられます。
勤務時間はフレックスタイムが導入されており、多彩な働き方ができる点も魅力です。休日もしっかりとあるので、自身の時間を大切にすることも可能。ただし部署によっては時間帯や休日に制約が付く場合があるので、この点は要注意でしょう。
東宝で働く上で満足度が高いと感じられる要素は、仕事を通じて成長ができる点ややりがいを感じられることを挙げる方が少なくありません。映画作品に関わる上では東宝の中にも色々な部署がありますが、そこで自身の行なったことが反映されたり、職場の仲間と言いライバル関係となって競い合ったりできるのは、魅力と感じられるようです。
出来上がった作品は東宝の配給力をもって、しばしばメガヒットを飛ばしますし、いろいろな作品が多くの方に鑑賞され、感動や喜びを伝えていきます。そこに関われるというのは、従業員サイドからしても大きな魅力となるようです。
また東宝の影響力とネームバリューで、他社への営業などはやりやすいと評判となっています。やはり大手の映像制作会社や放送会社とのパイプが太いですから、それは有利なポイントでしょう。
一方で、問題点として見られるのが「経営体質の古さ」という点です。良くも悪くも伝統的な気風が残る会社とされます。法律遵守はしっかりとしており、社員研修も充実していて働きやすさでは高く評価されていますが、実力主義・成果主義を望む方にとっては、納得がいかないという声もあります。この辺りは基本的に日本企業に多く見られる特徴です。実力主義・成果主義で、若くても実力があれば昇給・昇進できる会社を望む人は向いていないかもしれません。
作品への評判
東宝の事業は映画の製作や配給ですから、映画作品への評価がそのまま東宝の評価に繋がっています。現在では他の映画配給会社に比べて、東宝はダントツの地位を占めています。したがって、「世間の東宝に対する評価は極めて良い」と言っても間違いではないでしょう。
では、日本国内の興行成績から、東宝の評価の高さについて見ていきたいと思います。
日本歴代興行収入ランキングでは、「千と千尋の神隠し」が2001年から長らく不動の首位の座を保持してきました。2位のタイタニックよりも40億円も多く収入を上げていますが、このジブリの名作は東宝の配給によるものです。「千と千尋の神隠し」は不思議な世界観が魅力で、映画自体に深いメッセージ性や訴えたい事柄がこめられており、その点も視聴者に支持される傾向にあります。ジブリ作品は他に「もののけ姫」や「となりのトトロ」などを配給していますが、これらが日本屈指のアニメーション作品として成功した裏には、東宝のサポートがあったのではないでしょうか。
日本歴代興行収入ランキングでは、洋画関係の配給会社が幅を利かせており、日本の企業では東宝だけが太刀打ちできているような状況です。社会現象にもなったアニメーション作品「君の名は。」が第4位に食い込み、「踊る大捜査線」も上位に食い込む健闘をしています。特に「君の名は。」は近年では珍しいスマッシュヒットを飛ばした作品になっており、視聴者の評判も高いです。やや見る者を選ぶ側面がある作品で、苦手な方もちらほらいますが、それを跳ね返すほどの人気を集めた作品です。作品中にはセリフやキャラクターの動作だけではなく、和歌を使ったりして色々な暗示的なメッセージを視聴者に投げかけます。このために繰り返して鑑賞する度に理解が深まるという魅力があるという方も少なくありません。やはり何度も繰り返し見たくなる作品は、名作の証と言えるでしょう。
1983年の名作「南極物語」も東宝の配給です。これは今でも日本歴代興行収入ランキングTOP100に食い込んでいます。「ゴジラ」や黒澤明監督の作品を含めて、日本映画界の金字塔を多く打ち立ててきたのも、東宝の業績。このような歴史を持つために、映画でもテレビでも存在感を発揮できるのでしょう。
東宝は自社の手がける映画館「Toho シネマズ」を展開しています。「Toho シネマズ」は基本的に綺麗で落ちつた雰囲気で鑑賞ができると、映画ファンの間でも好評です。スクリーンやシートにこだわりがあったり、音響施設や調度品にも配慮があるなど、高いレベルで映画鑑賞できるような取り組みがなされた結果でしょう。
総括
日本を代表するような作品を多く手がけてきた東宝は、名実ともに映画業界ではトップに君臨していると言えます。歴史的に見ても日本の映画を語る上では欠かせないような、ジブリ作品・黒沢作品・ゴジラシリーズなどの大ヒット作を手がけてきており、その業績は揺るぎないでしょう。現在でも関係各社とのコネクションがあり、信頼度が高いので、予算をかけた作品や自信のある作品は東宝が配給を担うケースが多くなっています。そして結果的に、そのような作品が成功するわけですから、東宝からするとまったくもって好循環と言えるでしょう。
従業員からしても人気作品に携わるケースもありますし、上記のような背景があるので売り込みや取引交渉では、有利に立ちやすいと言われます。そして、視聴者の方も名作を見ると、クレジットには東宝が見当たりますので、作品の評価=東宝への評価に繋がります。このようなロジックから、東宝の口コミ評価は概ね高いです。
つまり、東宝の評判は、設立当初から現在に至るまで、高い信頼度を築いていると言えます。事業内容は時代と共に変化して映画の製作部門を縮減したりもしましたが、「朗らかに、清く正しく美しく」という経営方針は創業者である小林一三氏の掲げた原点からブレず、貫き通しています。このような初志貫徹の精神が、東宝が支持を集める基盤にあるのかもしれません。